“整い”を求めて、人は何度でも通う。——けれど、初めてサウナに来てくれた人が2回目に来てくれる確率は約3割。そこを越えて3回通ってもらえれば、その後は約9割が定着する(POS+/タカラベルモント)。この「最初の数回」をつなげられるかどうかで、一人の会員が生涯に落としてくれる価値はまるで変わる。都内で完全予約・会員制の上質なサウナを営むある施設は、月額「通い放題」サブスクを軸に、この“2回目の崖”をLINEのデータで越えにいった。非日常の体験を壊さずに、どう「通う理由」を設計したのか。その全プロセスを公開する。
舞台は、予約でしか入れない“静かな非日常”
舞台は、都内の住宅街にひっそりと佇む、完全予約・会員制のサウナ施設だ。看板は控えめで、扉を開けると、街の喧騒が嘘のように消える。木の香り、薄暗く落ち着いた照明、立ちのぼるロウリュの蒸気——ここは“ととのう”ためだけに設計された、静かな非日常の箱だ。同時間帯の入館人数は絞られ、客同士の距離も保たれている。だからこそ、一度その心地よさを知った人は、生活の一部として通うようになる。
運営はオーナーを含む少人数。会員数は口コミと体験来館で着実に増えていた。だが、増えていく会員リストは、ただの“名簿”でしかなかった。「誰が常連で、誰がもう来ていないのか。それを正確に言えるのは、受付に長くいるスタッフの記憶だけでした。記憶は引き継げないし、忙しい日には抜け落ちる。せっかく体験で来てくれた方が、その後どうなったのかを追えていなかったんです」。オーナーはそう振り返る。

データで見る、LINE配信の“不都合な現実”
施策の話に入る前に、まず業界の数字を直視したい。LINE公式アカウントには、業種ごとにくっきりとした“ブロックの壁”がある。
| 業種 | LINEブロック率(中央値) |
|---|---|
| 日用品 | 19.1% |
| 飲食 | 22.8% |
| 化粧品 | 34.8% |
| 人材 | 35.8% |
| 医療・美容 | 37.0% |
出典:Social Plus「LINE公式アカウントのブロック率」2024年調査(友だち1,000人未満を除外)。平均ブロック率は29.7%。サウナ・フィットネスなどのウェルネス業態は個別には公表されていないが、平均29.7%が一つの目安になる。
さらに重要なのがブロックの理由だ。消費者調査では、LINE公式アカウントのブロック経験は70%、その理由の第1位は「配信の頻度が多すぎる」(26.5%)(モビルス2025・655名)。つまり“たくさん送る”ほど切られる。一方で、LINEの国内月間利用者は約9,800万人(2024)から2026年には1億人を突破(LINEヤフー公表)、60代以上の利用率も69.0%。リーチの母数は巨大なのに、配信の仕方を間違えると、その大半に届かなくなる。
この施設にとって、ブロックは単なる数字の問題ではなかった。静かな非日常を売りにする店が、量産された“お知らせ”を送りつければ、その世界観そのものが安っぽくなる。「セール」「本日空きあり」を毎日のように一斉送信すれば、ブロックされる前に、まず“らしくない”。リーチを取りにいくほど、ブランドが削れていく——この矛盾が、最初の壁だった。
なぜ「通い放題サブスク」なのか——体験型ビジネスの勝ち筋
この施設が選んだ軸は、月額「通い放題」のサブスクだった。1回ごとの都度払いではなく、定額で“いつでも通える権利”を持ってもらう。これは単なる課金方式の話ではない。「次にいつ来るか」を、来店のたびに考えさせないための設計だ。
都度払いのままだと、人は毎回「今日はお金を払ってまで行くか」を判断する。その小さな摩擦が、2回目・3回目の足を止める。通い放題なら、その判断コストが消える。「せっかく入っているのだから、今日も寄っていこう」——その心理が、来店頻度を底上げする。冒頭のデータ(3回通えば約9割が定着)を、サブスクが構造的に後押しするわけだ。
サブスクラインでは、こうしたサブスク(通い放題・回数券)をLINE上で完結して提供できる。会員はLINEから申し込み、決済し、来館時はLINEの会員証を提示するだけ。「申し込む」「払う」「通う」が一本の動線になる。施設側は、誰がどのプランで、いつから何回通っているかを、データとして把握できる。名簿が、初めて“通う人の記録”に変わった。
入口でつまずかせない——あいさつ+ステップ配信
最初に整えたのは、入会直後のオンボーディングだ。体験来館や友だち追加の直後は、最も気持ちが温まっている瞬間であり、同時に最も離れやすい瞬間でもある。ここを“放置”すると、せっかくの初回が一度きりで終わる。
そこで、友だち追加をトリガーにあいさつメッセージとステップ配信を自動化した。1通目は歓迎と施設の世界観・利用の流れ、数日後にサウナの“ととのい方”や混雑しにくい時間帯のガイド、さらに後日に通い放題プランの案内——と、急かさずに、しかし確実に“2回目への橋”を架ける。スタッフが一人ひとりに手作業で送る必要はない。一度設計すれば、新しい会員全員に、同じ丁寧さで届く。
「最初の1週間で何も届かなければ、人は店のことを忘れます。逆に、ちょうどいい間隔で“あなたを歓迎しています”が届けば、もう一度行こうと思える。その入口の設計を、仕組みに任せられたのが大きかった」。
解決の核:AIパーソナライズ配信——配信を「1人ずつ」に変える
ステップ配信で“2回目”をつくった先で、この施設が最も価値を感じたのがAIパーソナライズ配信だ。これは、配信対象の一人ひとりに合わせて、文面・画像をAIが個別に生成する機能だ。来館履歴、よく来る時間帯、関心(ロウリュ重視か、外気浴重視か、物販のドリンクをよく買うか)を踏まえ、「前回から少し間が空きましたね。週末の夕方、外気浴が気持ちいい季節です」「いつものお時間、空きがあります」といった“その人あての一通”を、人手をかけずに用意する。
非日常を売る店にとって、これは決定的だった。量産のお知らせは世界観を薄めるが、“自分宛て”の一通は、来館前から体験の一部になる。送る相手だけでなく“中身”まで一人ひとりに合わせることで、配信そのものが、ブランドを削るどころか、むしろ世界観を延長する接点に変わった。
そして何より重要なのが、送信前に必ずスタッフが確認・承認すること。AIが勝手に送ることはない。AIはあくまで下書きまで。最後に送るかどうかを決めるのは、いつも人だ。スピードと、ブランドを守る慎重さ。その両立が、上質さを掲げる店でも安心して使える理由になった。
一斉配信 vs AIパーソナライズ配信——同じ条件で比べたデータ
この施設が同条件で比較したところ、差は明確だった。
配信の反応率(URLタップ率)は、一斉の約4%から、パーソナライズで約13%へと約3倍。そして“自分向け”の情報が届くほど、ブロック率は約27%から約16%へと大きく下がった。送る数を増やしたのではない。一通の精度を上げた結果だ。

なぜ、関連性が上がるとブロックは減るのか
理屈はシンプルだ。ブロック理由の第1位は「頻度が多すぎる」(モビルス2025)。裏を返せば、“自分に関係ない配信”が多いほど、頻度が「過剰」に感じられる。逆に、一通一通が自分向けなら、同じ通数でも“ちょうどいい”に変わる。AIパーソナライズは、配信の関連性そのものを引き上げることで、頻度の体感を下げ、ブロックを減らす。この施設は月8回だった配信を月4回へ意図的に減らし、その分、一通の質に振り切った。送る数ではなく、一通の関連性で勝つ——非日常を守りたい店ほど、この発想が効く。
セグメント配信+クーポンで、“空いている時間”に来やすい人を呼ぶ
会員制サウナの悩みは、満席の時間と、静かすぎる時間が極端なことだ。来館データを使えば、会員を最終来店日・来店頻度・関心で絞り込める。サブスクラインのセグメント配信で、「平日昼に来歴のある会員」「外気浴の季節に動く層」「しばらく来ていない会員」を切り出し、その層に、その枠に向けたクーポンや案内だけを送る。
週末の夜は黙っていても埋まる。だから割引は打たない。代わりに、平日午後やオープン直後の“谷”の時間帯に来やすい層へ、世界観を崩さない範囲のささやかな特典(オプションのドリンク無料、延長サービスなど)を届ける。常連に不要な値引きを連発して単価を削ることなく、埋めたい枠を、来やすい人で埋める。配信が“全員への安売り”から、“需要の最適配置”に変わった。
リッチメニューの出し分けで、会員と未会員に“別の入口”を見せる
LINEのリッチメニュー(トーク画面下のメニュー)も、全員に同じものを見せる必要はない。サブスクラインでは、会員(通い放題サブスク加入者)と、まだ体験前の未会員とで、リッチメニューを出し分けられる。
通い放題の会員には「予約」「会員証」「今日の空き枠」を大きく。まだ加入していない友だちには「体験予約」「通い放題プランを見る」を前面に。同じ公式アカウントなのに、相手の状態に合わせて“次の一歩”だけを差し出す。迷わせない動線が、体験から入会への転換を後押しした。
会員証・ポイントで、“通うほど特別になる”を可視化する
通い放題の体験を支えたのが、LINEの会員証とポイントだ。来館時はスマホのLINE会員証を提示するだけ。財布もカードもいらない。そして来館や利用に応じてポイントが貯まり、オプションや物販に使える。
ポイントは単なる値引きの仕組みではない。「通うほど、自分がこの場所の常連になっていく」という実感を可視化する装置だ。来館が記録され、ポイントが積み上がり、会員ランクが上がっていく。その積み重ねが、解約の手を止める。サブスクの継続率は、こうした“通う実感”の設計に支えられている。
AIエージェントが、“次の一手”を提案し続ける
ここまでの分析と配信を、毎日人手で回すのは現実的でない。少人数で運営する施設ならなおさらだ。そこで効いたのがAIエージェントだ。来館データと売上を読み、「先月から足が遠のいた20名へ、掘り起こしの一通を」「平日昼の谷の枠に、この層を」「通い放題の継続◯ヶ月の会員へ、感謝の特典を」といった打ち手を、根拠つきで提案する。
そして何より重要なのが、AIが勝手に送らないこと。提案された配信は、必ずスタッフが内容を確認し、ワンタップで承認して初めて実行される。分析 → 提案 → 承認 → 実行のループが回り、「忙しくて今月まだ何もしていない」がなくなった。最後の判断は、いつも人が握っている。属人化していた“受付の記憶”が、仕組みとして回り始めた。
この掘り起こし配信から、しばらく足が遠のいていた休眠会員の約24%が再来館した。来館の“間隔”を見ていれば、気持ちが離れきる前に、そっと手を差し伸べられる。それが、来店データを持つ最大の見返りだった。
導入後の成果
配信を減らしたのに、反応は増えた。送る相手だけでなく“中身”まで一人ひとりに合わせ、通い放題で“通う理由”を設計したことで、ブロックは下がり、2回目の来館が増え、サブスクの継続率が高い水準で安定し、既存会員のLTVが伸びた。非日常の世界観を一切崩さずに、データは明確に動いた。
お客様・スタッフの声
自分の通うペースや好みに合った案内が届くので、つい開いてしまう。ちょうど“そろそろ行きたいな”と思っていた頃に、空き枠の連絡が来るんです。
── 通い放題会員(30代・男性)
通い放題にしてから、“今日はやめておこうかな”が減りました。仕事帰りに寄るのが習慣になって、整える時間が生活に組み込まれた感じです。
── 通い放題会員(40代・女性)
お客様の来館歴が画面で分かるので、受付での声かけが具体的になりました。“いつもありがとうございます”が、ちゃんと中身を伴って言える。配信も、送る前に必ず確認できるので安心です。
── 受付スタッフ
何を、いつ、誰に送るべきかをAIが提案してくれるので、少人数でも配信が止まりません。ブロック率を見ながら頻度を調整できるのも大きいです。
── 施設オーナー
これからの展望
次に見据えるのは、来館データと満足度を組み合わせた“一人ひとりの整い設計”だ。データが積み重なるほど、AIの提案はこの施設らしく賢くなる。混雑を避けたい人へは静かな時間帯を、外気浴を好む人へは季節の便りを——。「送る数」ではなく「届く精度」で勝負する方針は、会員データが厚くなるほど効いてくる。サブスクの解約を減らし、一人の会員と長く付き合うほど、その価値は複利で積み上がる。
検討中のサウナ・体験型店舗オーナーへ — 店長からのメッセージ
「会員を名簿で持っているだけでは、宝の持ち腐れです。通い放題で“通う理由”をつくり、来館が記録されるだけで、誰が常連で、誰が離れかけているかが見えてくる。あとは、空いている時間に、その人あての一通を送るだけ。難しい運用はAIが提案・下書きしてくれて、送る前は必ず人が承認します。世界観を大事にしたい店ほど、“1人ずつ”の配信は効きます。量産のお知らせでブランドを削るのは、もうやめにしませんか。まずは無料で、自分たちのデータで試してみてほしい」。
まとめ:非日常を売る店こそ、“1人ずつ”で勝つ
LINEの平均ブロック率29.7%、ブロック理由1位は「頻度」。一方で国内利用者は1億人規模、3回通えば約9割が定着——。巨大なリーチと、高い離脱が同居するのがLINEの現実だ。非日常を売る会員制サウナにとって、量産の一斉配信は、ブロックされる前にまず世界観を壊す。この矛盾を解く鍵は、“誰に”の先の“何を”、つまり配信を1人ずつに変えることにある。通い放題サブスクで“通う理由”を設計し、ステップ配信で入口をつなぎ、セグメントとリッチメニューで動線を整え、AIパーソナライズが関連性を上げてブロックを下げ、AIエージェントが運用を止めずに回す。最後は必ず人が承認する。送る数ではなく一通の精度で勝つ——それが、静かな非日常を守りながら会員を増やし、LTVを伸ばした道筋だった。
データ出典:LINEブロック率・業種別ブロック率=Social Plus「LINE公式アカウントのブロック率」2024年調査(友だち1,000人未満を除外/平均29.7%)。サウナ・フィットネス等のウェルネス業態は個別公表が無く、平均値を目安として参照。ブロック経験70%・理由1位「配信の頻度が多すぎる」26.5%・60代利用率69.0%=モビルス2025(655名調査)。国内LINE利用者数=LINEヤフー公表(約9,800万→2026年1億突破)。新規リピート約30%・3回来店で約90%継続=POS+/タカラベルモント。LINE開封率「約60%」は業界通説で一次出典が乏しく、諸説あります。当該施設個別の数値(2回目来店率・サブスク継続率・反応率・休眠復活率・ブロック率・LTV)は当該施設の実績にもとづく値です。
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