飲食店に来てくれたお客様の「次の一回」は、どこで決まるのか。——新規で来た人が2回目に来てくれる確率は約3割。けれど3回通ってもらえれば、その後は約9割が定着する(POS+/タカラベルモント)。最初の数回をつなげられるかどうかで、一人の生涯価値はまるで変わる。居酒屋・カフェ・ラーメンを同じエリアで数店舗営むある飲食グループは、この「2回目の崖」を、勘ではなく来店データで越えにいった。その全プロセスを公開する。
「誰が常連か」が、店長の頭の中にしかなかった
舞台は、ひとつの街で複数の業態を運営する飲食グループ。夜は賑わう居酒屋、昼に強いカフェ、行列のできるラーメン——客層も来店動機も時間帯もまるで違う三つの店を、同じLINE会員基盤でつないでいた。会員は順調に増えていた。だが、増えた会員リストは、ただの“名簿”でしかなかった。
「誰が常連で、誰がもう来ていないのか。それを正確に言えるのは、長くいるスタッフの記憶だけでした。記憶は引き継げないし、店をまたいだら一気に見えなくなる。居酒屋の常連さんがカフェにも来ているのか、誰も把握できていなかったんです」。グループの運営担当はそう振り返る。

飲食のブロック率は低い。だが“油断”すると一気に切られる
まず業界の数字を直視したい。LINE公式アカウントのブロック率には、業種ごとにはっきりした差がある。
| 業種 | LINEブロック率(中央値) |
|---|---|
| 日用品 | 19.1% |
| 飲食 | 22.8% |
| 化粧品 | 34.8% |
| 人材 | 35.8% |
| 医療・美容 | 37.0% |
出典:Social Plus「LINE公式アカウントのブロック率」2024年調査(友だち1,000人未満を除外)。平均ブロック率は29.7%。飲食は22.8%と低めだが、店ごとにバラバラな一斉配信を重ねると、この数字はすぐに悪化する。
飲食は22.8%と、医療・美容(37.0%)や人材(35.8%)に比べれば低い。だが、ここに落とし穴がある。消費者調査では、LINE公式アカウントのブロック経験は70%、その理由の第1位は「配信の頻度が多すぎる」(26.5%)(モビルス2025・655名)。複数店舗が思い思いに「今日は◯◯フェア」「クーポン配布中」と一斉配信を重ねれば、会員から見れば“関係ない通知”の山になる。低いはずの飲食のブロック率も、運用を間違えればあっという間に悪化する。
一方で母数は巨大だ。LINEの国内利用者は約9,800万人(2024)から2026年には1億人を突破(LINEヤフー公表)。リーチの土台は十分にある。問題は「送る相手」と「送る中身」と「送る時間」を、データで選べているかどうかだった。
なぜ「一斉配信」では2回目が来ないのか
多くの飲食店がやっているのは、友だち全員への一斉クーポンだ。短期的には反応がある。だが、一斉配信は“誰が初回客で、誰が常連か”を区別しない。初めて来た人にも、週3で通う常連にも、同じ「全員割引」が届く。常連には不要な値引きで利益を削り、初回客には“その人にとっての次の一歩”を示せていない。
「初回のお客様が、なぜ2回目に来ないのか。それは“思い出すきっかけ”がないからなんです。来た翌週に何も届かなければ、別の店に流れて当たり前。逆に、常連さんに割引を連発すれば、ただ単価が下がるだけ。同じ一斉配信が、両方に効いていなかった」。担当はそう分析する。
このグループの転機は、会員を“ひとつの名簿”として扱うのをやめ、来店データで一人ひとりを見ることに踏み込んだ点にあった。鍵になったのが、サブスクラインの来店分析機能群だ。
解決①:来店履歴を、会員ごとに積み上げる
すべての起点は、来店の記録だ。サブスクラインでは、会員がチェックインするたびに、来店日・時刻・滞在時間が会員プロフィールに蓄積されていく。誰がいつ来たか、最後の来店から何日経ったか、どの店に来たか。それまでスタッフの記憶に頼っていた情報が、構造化されたデータとして残るようになった。
「まずは“見えるようにする”ことが大事でした。来店が記録されるだけで、会員一覧が一気に意味を持つ。最終来店日が並んでいるだけで、誰に手を打つべきかが見えてくる」。データが貯まるほど、次の打ち手の精度は上がっていった。
解決②:RFMで会員を階層化する——常連も、これから常連も
貯まった来店データを、グループはRFMで整理した。Recency(最終来店日)、Frequency(来店頻度)、Monetary(客単価)。サブスクラインの会員検索では、最終来店日・登録日・来店頻度・客単価で会員を絞り込める。これを使い、「週3で通う常連」「月1のライト層」「初回だけで止まっている人」「しばらく来ていない人」を、明確な層として切り出した。
層が見えれば、打ち手が変わる。常連には“いつもありがとう”のお得な体験を、初回客には“もう一度来る理由”を、離反しかけの人には“掘り起こし”を。全員に同じものを配るのをやめ、層ごとに中身を変えた。これがすべての施策の土台になった。

解決③:来店間隔の異常検知——「足が遠のいた人」を、離れる前に拾う
RFMの中でも、このグループが最も価値を感じたのがRecency(最終来店日)の使い方だ。会員ごとに“いつものペース”は違う。週1で来る人が3週間来なければ、それは明確な異常だ。サブスクラインで最終来店日を軸に絞り込めば、「いつもより足が遠のいた会員」を離反の予兆として抽出できる。
「去ってしまってから気づくのでは遅い。来店の“間隔”を見ていれば、まだ気持ちが離れきる前に手を打てる。『お久しぶりです、あなたの好きな◯◯、今週も用意しています』——その一通が、崖の手前で踏みとどまってもらうきっかけになりました」。
この掘り起こし配信から、離反しかけていた会員の約22%が再来店した。一度離れかけた人を呼び戻せること——それが、来店データを持つ最大の見返りだった。
解決④:曜日×時間帯のヒートマップ——“空いている枠”に、来やすい人を送る
飲食店の悩みは、満席の時間と、ガラガラの時間が極端なことだ。来店データを曜日×時間帯で集計すると、来店の山と谷がヒートマップのように可視化される。金曜夜は満席でも、火曜の昼や日曜の夕方には空きがある。
そこでグループは、谷の時間帯に来やすい客層へ、その枠に向けた配信を打った。平日昼に来歴のある会員には火曜ランチの案内を、夕方早い時間に来る家族層には日曜の早い時間枠を。送る“相手”だけでなく送る“タイミング”をデータで合わせたことで、配信の反応率は一斉の約4%から約12%(約3倍)へ跳ね上がった。
勘と経験の運用 vs 来店分析でのデータ運用
このグループが、導入前後で何がどう変わったのかを並べると、違いは一目瞭然だった。
どれも特別なことはしていない。記憶に頼っていた判断を、データに置き換えただけだ。だが、その積み重ねが数字を動かした。
解決⑤:コホート継続率でLTVを分解する——どの業態が、何回でLTVを稼ぐか
グループ全体の意思決定に効いたのが、プランレポートのコホート継続率だ。いつ会員になった人たちが、何ヶ月後まで残っているか。これを業態ごとに並べると、店の“体力”が定量で比較できる。
「居酒屋は初速が速いが、3ヶ月で落ちやすい。カフェは立ち上がりは緩いが、長く残る。ラーメンは頻度が高い——。こうした“継続のクセ”がコホートで見えると、どこに販促費を寄せるべきかが、感覚ではなく数字で決められる」。さらに、来店履歴と購買データを突き合わせれば、『来店回数×客単価』でLTVを分解でき、伸ばすべきは頻度なのか単価なのかが業態ごとに見えた。
解決⑥:業態をまたぐ“回遊”を、設計する
複数業態を持つ最大の強みは、店をまたいだ送客ができることだ。だが、店ごとにデータが分断されていれば、その強みは眠ったままになる。同じLINE会員基盤に来店データを集約したことで、グループは「居酒屋の常連だが、カフェには来ていない会員」を特定できるようになった。
そこへ「系列のカフェ、昼はこんな顔をしています」と、居酒屋とは違う時間帯の魅力を届ける。意図して回遊を設計した結果、業態をまたいで来店する会員の比率は約8%から約21%へ広がった。一人の会員が、グループの中で何度も財布を開いてくれる——それがLTVを押し上げた。
解決⑦:CSVで外部分析、深掘りは自由に
サブスクライン上の分析だけでなく、グループは会員・来店データをCSVで出力し、外部のBIツールで独自の切り口の分析もしていた。月次の経営会議では、店長ごとに自分の店の常連の動きを持ち寄る。ツールに閉じず、データを自分たちの手元で回せること。それが“やらされる分析”を“自分たちの分析”に変えた。
解決⑧:AIエージェントが、“次の一手”を提案し続ける
ここまでの分析を、毎日人手で回すのは現実的でない。そこで効いたのがAIエージェントだ。来店データと売上を読み、「火曜昼に来歴のある会員へ、この内容を、この時間に」「先月から足が遠のいた20名へ、掘り起こしを」といった打ち手を、根拠つきで提案する。
そして何より重要なのが、AIが勝手に送らないこと。提案された配信は、必ずスタッフが内容を確認し、ワンタップで承認して初めて実行される。分析 → 提案 → 承認 → 実行のループが回り、「忙しくて今月まだ配信していない」がなくなった。最後の判断は、いつも人が握っている。
導入後の成果
一斉配信をやめ、来店データで“誰に・何を・いつ”を選び直した。すると、2回目の来店が増え、離反しかけの人が戻り、業態をまたぐ回遊が広がり、ブロックは下がった。送る数を増やしたのではない。一通の関連性を上げた結果、低かったはずの飲食のブロック率がさらに下がり、LTVは伸びた。
なぜ、関連性が上がるとブロックは減るのか
理屈はシンプルだ。ブロック理由の第1位は「頻度が多すぎる」(モビルス2025)。裏を返せば、“自分に関係ない配信”が多いほど、頻度が「過剰」に感じられる。来店データで一人ひとりに合わせた配信は、同じ通数でも“ちょうどいい”に変わる。来店分析は、配信の関連性そのものを引き上げることで、頻度の体感を下げ、ブロックを減らす。
スタッフ・お客様の声
最後に来てくれたのがいつか、何が好きか。それが画面で分かるから、声かけが具体的になりました。常連さんに『いつもの、お出ししますね』と言えるのが、お客様にも喜ばれます。
── ホールスタッフ
ちょうどしばらく行けてなかった頃に、好きなメニューの案内が来て。『覚えてくれてるんだ』と嬉しくて、その週末に行きました。
── 来店客(40代・男性)
どの店に、どの時間に、誰を呼ぶべきか。AIが提案してくれるので、配信が止まらない。数字を見ながら頻度を調整できるのも大きいです。
── グループ運営担当
これからの展望
次に見据えるのは、来店データと満足度を組み合わせた“一人ひとりの来店設計”だ。データが積み重なるほど、AIの提案はこのグループらしく賢くなる。「送る数」ではなく「届く精度」で勝負する——その方針は、業態が増えるほど、会員データが厚くなるほど効いてくる。
検討中の飲食店・多店舗グループへ
「会員を名簿で持っているだけでは、宝の持ち腐れです。来店が記録されるだけで、誰が常連で、誰が離れかけているかが見える。あとは層ごとに、空いている時間に、その人あての一通を送るだけ。難しい分析はAIが提案してくれて、送る前は必ず人が承認します。複数店舗を持っているなら、店をまたいだ回遊まで設計できる。まずは無料で、自分たちのデータで試してみてほしい」。
まとめ:勘ではなく、来店データで“2回目の崖”を越える
新規の初回リピートは約3割、3回通えば約9割が定着——飲食のLTVは“最初の数回”でほぼ決まる。だが一斉配信は、初回客にも常連にも同じものを配り、その分かれ目に手を打てない。来店履歴を会員ごとに積み、RFMで層を分け、来店間隔の異常で離反を予知し、ヒートマップで配信のタイミングを合わせ、コホートでLTVを分解し、業態をまたいで回遊を設計する。それを毎日回すのはAIエージェントが提案し、最後は人が承認する。勘と経験の運用を、来店データの運用に置き換える——それが、複数業態の飲食グループが2回目の崖を越え、LTVを伸ばした道筋だった。
データ出典:LINEブロック率・業種別ブロック率=Social Plus「LINE公式アカウントのブロック率」2024年調査(友だち1,000人未満を除外/平均29.7%・飲食22.8%)。ブロック経験70%・理由1位「頻度が多すぎる」26.5%=モビルス2025(655名調査)。国内LINE利用者数=LINEヤフー公表(約9,800万→2026年1億突破)。新規リピート約30%・3回来店で約90%継続=POS+/タカラベルモント。LINE開封率「約60%」は業界通説で一次出典が乏しく、諸説あります。
※ 本事例は当グループのご希望により匿名で掲載しています。グループ個別の数値(2回目来店率・掘り起こし復活率・反応率・回遊比率・ブロック率・LTV)は当該グループの実績にもとづく値です。
